近所の田んぼに珍しくコオニタビラコ・小鬼田平子(キク科ヤブタビラコ属)が一面に生えていました。
春の七草の“ほとけのざ”はこのコオニタビラとされています。これにはこの草にとって少しかわいそうな名前の変遷があるようです。
今は通用しない古い名前が多い春の七草ですが、なかでも混乱しているのがこの“ほとけのざ”です。古い文献では七草の中にホトケノザとタビラコが両名並ぶのもあり(連歌至宝抄」)、両者は別種とされることもあったようですが、七草のホトケノザを牧野富太郎がコオニタビラコと同定してからは、いまではこれが広く受け入れられています。
コオニタビラコ:小鬼田平子となった旧ホトケノザは、水田に多い2年草で、田起し前の水田に放射状に平たく葉を広げる様子から田平子と名がつきましたが、ムラサキ科のキュウリグサも別名でタビラコと呼ばれることからこれと区別するため、よく似たオニタビラコの小形ということでコオニタビラコが正式の名になったといわれています。加えて、昔はサンガイクサ(三階草・三蓋草)といわれたシソ科の植物がホトケノザという名を得て、道端に多量に繁茂するようになってからは、七草の“ほとけのざ”は名前としては全く忘れられることになり、せっかく“ほとけのざ”という立派な名を持ちながら、他人に名を盗られただけではなく、オニの名までつくという悲しい運命をたどることになりました。その“ほとけのざ”は、いまでは田んぼで見かけることも少なくなって、草そのものも忘れられようとしています。